コラム
叢生治療を抜歯で治す方法と非抜歯で上顎大臼歯遠心移動をさせて治療する二つの方法を説明
1.抜歯による叢生治療 🦷
1. 適応時
- 強い叢生(歯並びが重なり合って凸凹になっている状態)
- 前歯の突出感(上顎前突)や八重歯が顕著で、歯列スペースが極めて不足しているケース
- 自然の歯を削らず、理想的な歯列に整える必要がある場合
2. 治療の流れ
- 小臼歯(通常は上下顎の計4本)を抜歯します。
- ワイヤーブラケット(あるいはマウスピース矯正)で歯を並べるスペースを作り、歯を理想的な位置へ移動させます。
- 必要に応じて後戻りを防ぐためのリテーナー(保定装置)を使用します。
3. メリット
- 十分なスペースを確保でき、仕上がりが安定できます。
- 前歯・犬歯を理想的な並びに持っていくのが容易です。
- 顔立ち(唇の位置など)も整えやすいです。
4. デメリット
- 抜歯による天然歯がなくなります。
- 口元が内に入る印象や、「老け顔」に見える可能性があります。
- 抜歯への心理的抵抗感ができます。
2.非抜歯・上顎大臼歯遠心移動による叢生治療
1. 適応時
- 中等度以下の叢生で、抜歯しなくても矯正可能なケース
- 抜歯を避けたい、口元の自然さを維持したい方
- 成人および成長期の子ども、幅広く適応可能
2. 主な技術・装置
1. 矯正用小ネジ(インプラントアンカー/TADs)
- 顎骨に小さなネジを埋入し、それを支点として24時間安定的に大臼歯を後方へ移動させます。
- 成人に非常に効果的で、反作用も少ないです 。
2. カリエール・ディスタライザー
- 犬歯~大臼歯間に装着し、ゴムを使って後方へ移動。その後ワイヤーやマウスピースへ移行 して治療します。
- 20時間以上の装着が推奨。目立つ金属型のほか、透明タイプも近年登場 しました。
4. インビザライン(マウスピース矯正)
- 大臼歯の遠心移動プラン設計で遠心移動を組み込むことで可能になる場合があります。
- TADsと併用によって、成人に対しても精密でコントロールされた運動が可能です。
3. メリット
- 天然歯を保存でき、抜歯の心理的負担がありません。
- 顔立ちの変化が小さく、自然さを維持できます。
- 成人でも対応可能(特にTADs装着時)です。
- 前歯を大きく動かさず、フェイシャルバランスを崩しにくいです。
4. デメリット・注意点
- 治療期間が長くなる傾向あり(1年以上かかるケースも)ます。
- 装置の装着や患者の協力度に依存します。
- 上顎骨の骨量・形状が移動可能範囲が限定されることがあります。
- 反作用(アンカーロス)への対策が必要(TADsや補助ゴムなど)です。
- 大臼歯移動は難易度が高く、専門的な診断・技術を要します。
- 大臼歯が移動しない場合計画が変更となり小臼歯が抜歯になることもあります。
3.抜歯 vs 非抜歯 遠心移動:比較一覧
項目 | 抜歯法 | 非抜歯・遠心移動法 |
---|---|---|
適応症 | 重度叢生、突出感、スペースが大幅に不足する場合 | 中等度以下の叢生、スペースが比較的あるケース |
天然歯の保存 | ❌ 小臼歯抜歯が必要 | ✅ 天然歯をすべて保持 |
口元・フェイシャル | 抜歯により口元がやや内側になりやすい | 口元の変化が小さく自然さを維持 |
治療期間 | 半年~1年が多い | 長期化傾向(1年以上の場合あり) |
装置の負担 | ワイヤー中心で比較的負担が少ない | ヘッドギア・ゴム・インプラントなど使用が必要 |
安定性・成功率 | 高い | 装置・矯正医技術依存でやや変動あり |
年齢による適応 | 子ども・成人どちらにも有効 | 子どもは装置選びが重要、成人はTADs併用で対応可 |
4.選び方のポイント
- 歯並びの状態・叢生の程度
→ 重度 ⇒ 抜歯
→ 中等度以下 ⇒ 非抜歯の選択肢あります - 抜歯への心理的抵抗
→ 天然歯を残したい希望がある場合、非抜歯法を優先検討できます。 - 年齢や成長段階
→ 成長期ならヘッドギアや床装置が有効、成人はTADs使用が安定です。 - ライフスタイルの合致
→ 装置装着の継続(ゴム・ヘッドギアなど)の実行可能性かの検討が必要です。 - 費用・治療期間の見積もり
→ 抜歯法は比較的短期・比較的低コスト、非抜歯法は長期・装置種類によって変動することがあります。 - 担当医とのコミュニケーション
→ 技術的な説明、各装置の特性、反作用への対策などを確認してください。
5.まとめとアドバイス
- 抜歯法は確実性が高く、短期集中で美しい仕上がりを目指せますが、「歯を抜く」という決断に抵抗がある方が多いです。
- **非抜歯法(遠心移動)**は歯を残せるメリットがありますが、技術・装置選定や協力が難しく、治療も長期化しやすい点に注意が必要です。
- 特に上顎大臼歯を後方へ移動させる方法は最新技術(TADs、カリエール、ペンデュラムなど)が充実しており、大きな叢生改善が期待できます。ただし症例により適応が異なり、専門医の精密な診断が重要です。
- 最終的には、ご自身の顔立ちや価値観、生活スタイルを踏まえたうえで、信頼できる矯正専門医とじっくり相談することを強くおすすめします。
矯正は見た目だけでなく、咀嚼機能や長期的な歯の健康にも深く関わる重要な治療です。どちらの方法にもメリット・デメリットがありますが、それぞれの選択肢をしっかり理解し、自分にとって最良のプランを担当医と一緒に選んでいきましょう。